美人と仏ゴミ　　　

記念にもらった腕時計が動かなくなった。釣り行きごとに時計をはめたまま腕を潮水に突っ込むから時計も音をあげたのだろうか。心配して某時計店へ持参すると、電池を入れ換えただけでまた動きだした。でも、電池の入換えに二十分もかかった。その間私はしゃぶられていた。と、いうのは、他でもない。キャッチセールスの店だった。入ると店奥のテーブルにむりやり案内され、座ると茶が出た。　　　　　　　　　　　

「いらっしゃいませ」と美人の応接係が来てそのまま私の前にすわり、　　　　

「お待ちになっている間だけでもご覧になってください」といって、

宝石箱に並べた宝飾時計のあれこれを見せた。私の髪はバサバサ、安物の身なり、そしてたまたまゴム長靴を履いていた。私の反応の悪さに閉口したのか応接美人はやがてため息をついて、　　　　　

「よく日焼けされてらっしゃいますねぇ〜」といった。　

「はあ、釣りをするものですから」と私。　　　　　

「海ですか川ですか」と彼女。　　　　　　　　　　

「海の潮焼けです」と私。　

私は別段彼女と魚釣りの話がしたいわけではない。だのに、いろいろ問いかけられ全く閉口した。

小さなテーブルをはさんで美人と潮焼けおっさん。真ん中に宝石箱を置いてトンチンカン問答。ブスッと不愉快げな私を前に、彼女は終始ニコニコしていた。私は次第に彼女が気の毒になった。で、　　　　　　

「ご苦労だねぇ、でも、もうそろそろ腕時計の電池も入れ代わった頃かな？」と言った。「ハイ、見てまいります」と彼女。

この時ばかりは素直に立ち上がり、奥から直ぐに時計を持ってきた。お代は二千円に近い高値である。後刻、このことを知人に話すと、　　　　　

「えらい高いでんな。テーブルチャージ代が入ってますな」といった。　　　　

私もそう思う。加えて知人は、　　　　　　　　　　

「なんでも楽しまな損でっせ。若い女と話ができたのやからええやないの」と言う。　

でも、私はそうは思わない。おっさんをシャブルなんぞ、とんでもないことだ。彼女の雇い主の顔が見てみたい。いや、そんなもの見たくもない。　　

　◇　　◇　　◇

盆の精霊流しはもう止めたらどうだろう。海や川がゴミだらけになる。今年は盆に台風が来て、それが満潮時刻と重なったりしたものだから、普段は沿岸に打ち上げられていたゴミまでが一斉に海へ引き戻されてしまった。まぁ、ひどいゴミだった。大阪湾・播磨灘の海は、この沿岸打ち上げゴミと精霊流しゴミとが仲良く手をつなぎ、幅拾い帯になってただよった。沖合で見ると精霊流しの残骸（ゴミ）には一種異様な雰囲気がある。ホトケさん方が幾人も崩れた形でお手手をつなぎ漂っているような感じだ。　

精霊流しで仏が昇天などと思うのは大きな錯覚。仏はあてもなく海に漂っておりますぞ。